マジカレード(中編) 〜magicalead〜
著者:shauna


「すごーい!!!」
 それは祭なんてものでは無かった。カーニバル。そう言うのが一番適切だろう。
まず、旅人以外は大抵が仮装をしていた。それこそ、普段着ていたら“頭おかしい”と思われるぐらいハデハデな衣装だ。だが、派手なのはそれだけでは無い。
いつも人通りが激しい大通りには左右に人で埋まった観客席が備えつけられ、その中央を通るのは全て魔法召喚されたウンディーネやロイヤルガーディアン達。
空には絶え間なく、バブルボム・サークルの花火が打ち上げられ、町の所々には魔法をかけられた楽器がフワフワ浮きながら自動演奏をしていた。
普段の城下とは全然違う。もっと魅力的でもっと楽しい。まるで町全体が巨大なテーマパークみたいだった。
よく行くカフェも今日は屋上が解放され、そこから2人はパレードを見下ろす。
「スゴイ、スゴイ、スゴイ、スゴイ、スゴーーーイ!!!何これ―――!!」
我を忘れまるで見た目ぐらいの年齢の子供みたいにはしゃぐミーティアにシルフィリアが笑いながら説明した。
「魔法感謝祭(マジカレード)。4年に一度、魔道学会が定めた都市で開催される世界最高の魔法祭です。その目的は各国の最先端魔法技術の発表。悪い言い方をすると“見せびらかす”ですね。だから、ガリア、フロート、スペリオルの三国は毎回その時点で最も優れた魔法技術を発表するパビリオンを設け、4年間の研究の成果を発表し、そこに民間団体のパレードチームや、盛り上げ隊みたいなのが参加して、最高の3日間を作り上げます。中でも最終日の今日は、民間の催し物で最も優れたモノには学会から多額の賞金が出る為、最高に盛り上がることになるでしょうね。」
そんなことを言っている時にも海の方から大きな水柱が上がる。
「今のは!!」
「オンディーヌ歌劇団の水上ショーです。水の精霊オンディーヌと火の精霊イフリートの戦いのストーリーで精霊はもちろん本物を使い、魔法をふんだんに使って演出をするミュージカルですよ。」
「精霊も本物なの!?」
「ええ、だからこのお祭りの時には人間だけでなく精霊も召喚獣も一番忙しく、また一番興奮する時だと言われています。現にこのお祭りで召喚獣と契約を結ぶ魔法使いも多いみたいですよ。」
「へ〜!私にもできる?」
「そうですね〜・・・このお祭りにはサラマンダーやシルフィードやノームなんかも人に紛れて参加してますから、『契約したら意外に上級精霊だった。』なんてこともあるかもしれませんよ?」
「ホントにー!!!」
「ええ。ホントに。」
再び大きな花火が上がり、アナウンスが響き渡る。
「只今より、城下B広場におきまして、上級精霊達による美少女コンテストを開催します!人間の方でも我こそは!と思う方!奮ってご参加ください!!
尚、優勝者には賞金10000リーラと副賞としてピースバードトラベリングで行く、フロート公国が誇る地上最後の楽園“エリュシオン”へのペア旅行券を差し上げます!!」
「シルフィリア様出てみれば!!絶対優勝すると思うけど!?」
「嫌ですよ。ミーティアさんこそ出てみてはいかがですか?」
「あたしはそう言うの柄じゃないから・・。」
二人が顔を見合せて笑う。傍から見れば、それは、本当に仲の良い友達が語らっているようである。

「じゃあ、あたしが出てみようかしら?」

後ろから妙に野太い声がした。2人が振り返るとそこにはボディービルダー並の体躯にめちゃくちゃ化粧をした七三分けの親父が!!衣装は
なんと上が紫のタンクトップ。下がショッキングピンクの短パンという悪趣味で当たり前のように体にピチピチだった。
「うわっ!!」
ミーティアは思わず後ろにのけぞり、危なくも3階のテラスから落ちてしまうところだった。
「ジュリエット様。久しぶりですね。」
「シルちゃん!来るなら言ってくれればいいのに!!」
身体を異様にクネクネと動かしながらその中年オヤジはキラキラ輝く瞳をこちらに向けてくる。・・・・・気持ちが悪い。
「シルちゃん!そっちの子は?」
「えっと・・・」
「ミーティア・パイル・ユニオン!」
 慌てて偽名を名乗る。当然だ。城下で王族の姫君の名前を知らない人間など居ない。そんな王女がこんな恰好でこんな所に居ると分かれば
まためんどくさいことになることは必至だった。
流石にここで王女であることを明かすわけにはいかない。シルフィリアも察してくれたようで「です。」と短く手で仰いでくれた。
「ミーティアちゃんね。長いからフレンドリーにミッフィーって呼ぶわ(はぁと)。」
「それはちょっと・・」と言ってみるが、目の前の男?は一切聞く耳を持ってくれない。再びクネクネと腰を動かす男?に再び怖気を走らせながら
ミーティアはシルフィリアの服の袖をキュッキュと引いた。
「この人誰?」
シルフィリアが「紹介します。」と言って男?を手で仰ぐ。
「こちらはジュリオ・チェザーレ。」
「本名言っちゃいや〜ん。ジュリエットってよ・ん・で!」
「黙れこのオカマ!」
思わず叫んでしまった。それに対しジュリオ・・もとい、ジュリエットは・・・
「オカマですって!!」
と反論する。
「オカマじゃない!!」
「オカマじゃないわよ!!」
「黙れ!オカマじゃなきゃなんなの!?」
「乙女よ!!」
すごい・・。これ以上ないぐらいハッキリと断言しやがった。ここまで行くともはや清々しくもある。なんか言い争うのもバカバカしくなり、失った矛先をシルフィリアへと向ける。
「もしかしてシルフィリア様・・・そういう趣味?」
「・・・ミーティアさん。後でゆっくり話し合う必要がありそうですね。」
 言葉の端にものすごい尖ったモノを感じた。なんかこう・・言葉では言い表せない背筋に冷水を流しこまれたような感覚。シルフィリアの笑顔の浮かぶ顔もどこか引きつっている気がする。
 ちなみにシルフィリアにはそんな気は一切無く、アリエス一筋であるわけだが・・・・・
「いいミッフィー。人間はね。外観じゃないの!大事なのは心なの!!私も三十路という恐ろしい壁を越えてもう13年になるけど、心は今でも17歳。そう!私は永遠の17歳なの!!」
「イイコト言ってる気がするけど!それはただの年齢査証だーー!!!!」
祭囃子の中に朗々とした声が響いた。
ミーティアとジュリオが言い争ってる姿を見て、シルフィリアもなんだか笑いがこみあげてくる。
というのも、普通の人間ならこんなに早く彼に順応できる人間はそうそういないのだ。
これもミーティアの才能だろうか・・・
その時・・
「シルフィリア様・・・・」
シルフィリアの耳元に聞き覚えのある声が響いた。
―え?―とシルフィリアも辺りに視線を泳がせる。
しかし、そこにはミーティアとジュリオ以外に知っている顔は無かった。
つまり。声では無い。念話だ。誰かが自分の意識に介入してきて無理やり何かを伝えようとしたのだ。でも、誰が・・。プロテクトを掛けている自分の脳に話しかけるのが出来るのはアリエスを除いては・・・
はっとなにかに気が付いたシルフィリアが走りだす。
「ちょっとシルちゃん!」「シルフィリア様!!」
後ろの二人にはわき目も振らず、ただひたすらに・・・
 階段を一段ずつ降り、すぐにめんどくさくなって、手すりを飛び越えて一気に一階まで。そして外に出るともう一度声がした。
「シルフィリア様。」
―こっちか・・・―
シルフィリアは声の聞こえた方向へと走り出した。しかしすぐに人混みに呑まれる。思ったように動けず、小さな舌打ち。すぐに廻り道しようと考えるが、どこも人だらけもはや動くことすらできない。完全に呑まれた。
おまけに悪い事に・・・
「お!君、今、暇?かわいいねぇ!俺達、ロレーヌ候の騎士隊なんだ。ちょうど仕事終わったとこでさ。よかったら一緒に酒場で飲もうよ。おごっちゃうよ。」
「やべぇ、こいつマジ可愛くね?」
「ホントだ!スッゲー!人形みたいだぜ!!」
こんな時に限って・・・・
「ねえ、行こうよ。」
男の一人がシルフィリアの腕を掴んだ。
しかし・・・
「あんた達どきなさい!!」
声が響く。シルフィリアが後ろを向くとそこにはジュリエットの姿があった。両手を腰に当て、拡声器でも使っているかのような大声で叫ぶ。
「どかないと、あたし、ジュリエットちゃんの濃厚なキッスの味を味わうことになるわよ!」
その一言に男達は逃げ出した。うん。確かにこれは怖い・・・
そして、ジュリエットはそれを見物していた―その場にいた―全員の方に向き直り・・
「ちなみにあたしのストライクゾーンは広いわよ!!下は3歳から上は80歳までオールオッケー!!ちなみに要望は男であること!ついでにジュリエットちゃんは女の子もイケる口だからそのつもりでね!」
その場にいた全員がコンマゼロ5秒の間に整列道の左右に整列。瞬間的に花道ができあがる。その頃やっとミーティアも現場に到着した。
「ハァハァ・・あんた達・・異常なんじゃない!シルフィリア様は小説のヒーローみたいに手すりを飛び越えてくし、ジュリオは3階のベランダから飛び降りるし・・・」
「遅いわよミッフィー。ほら!行くわよ!」
そう言うと、ジュリエットは
「あ!こら!ちょっと!なにすんの!!」
「取って食べたりしないわよ!」
ミーティアを無理やり抱きかかえた。
「シルちゃん!」
唖然としていたシルフィリアがジュリオの一声でやっと正気に戻る。
「失礼。参りましょう。」
シルフィリアはそう言って再び走り出した。



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